鹿島神宮の第一駐車場。参拝客が最初に目にし、最後に立ち寄るその場所に、小さなジューススタンド「縁側(えんがわ)」はあります。運営している株式会社Plus One代表の久保氏が抱く「原風景」と、組織を裏側から支える「役割」の形を追いました。イバキャリ学生ライターの鈴木が、インタビューから執筆までを行っております。
「縁側」の心地よい空間の再現
鈴木:本日はよろしくお願いします!まずは「縁側」というお店が始まった経緯と、その名前に込められた想いを教えてください。
久保 始まったきっかけは、鹿島神宮の駐車場のところにテナントが立つことになって、出店のお声掛けいただいたことでした。もともといっぱいテナントがあった場所を一度全部なくして、新しく作りますというタイミングでお誘いいただいたんです。
鈴木:鹿島神宮の「玄関口」という非常に重要な場所での出店ですよね。
久保:そうですね 。店名の「縁側」というのは、僕が子供の頃に見ていた田舎の「家の縁側」がコンセプトになっています。昔の家って、畑仕事から帰ってきた人が、長靴を脱がずにそのまま縁側に腰掛けて、お茶を飲んで一服する...そういう風景があったじゃないですか。家の中というプライベートと、外というパブリック(公の場)の、ちょうど境界線にある「間(ま)」ですよね。
鈴木:参拝の前後で、ふと一息つきたいタイミングに重なりますね。
久保:まさにそうです。神宮の奥にある「湧水茶屋一休」(詳細は他の記事をご覧ください)が、ゆっくり座って食事を楽しむ「奥座敷」だとしたら、ここは入り口にある「縁側」。参拝前の高揚感や、参拝後の心地よい疲れを、美味しい飲み物と一緒に整理してもらうための「間」を、いい時間にできたら素敵だなと考えています。
展示会で出会った「本気ジュース」のストーリーに共感
鈴木:提供されている「本気ジュース」についても伺わせてください。これは最初からこの商品で行こうと決めていたのですか?
久保:最初の出会いは展示会だったんですよ。そこで「本気ジュース」をやっているマス久本店さんというメーカーを見つけて、試飲をしたらおいしいなと思いました。専務さんから説明を聞いたら、すごく良いストーリーがあったんです。
鈴木:展示会での出会いから、久保様が直接アプローチされたんですね。
久保:はい。その場で「うちやりたいです」って言いました。本来そこは、自然栽培で数が少ないから、本当に共感してくれる人にだけ売りたいという想いがあって、エントリーシートなどの選考に受からないと取引できないんです。でも、その場で伝えた熱意を気に入ってくださったのか、「久保さんだったら卸します」と、僕はエントリーシートも何も書かずに取引が始まりました。
鈴木:まさに久保様の「共感」が道を切り拓いたんですね。
久保:今では実際にスタッフを連れて高知のゆず農家さんまで視察に行かせてもらったり、新作が出る前にサンプルを送っていただいたりと、12、3年という長いお付き合いをさせていただいています。縁側では、商品をテイクアウトで提供しています。テイクアウトは、飲食店と違って日常の空間で飲まれるものだからこそ、湧き水との配合を1cc単位で調整し、一口飲んだ瞬間に「本物だ」と伝わるクオリティを追求しています。
売上では計れない「サポート」という役割の価値
鈴木:「縁側」はグループ全体の裏方作業も担っているというお話がありましたが。
久保:はい。実は「縁側」はグループの中で売上規模としては一番低いんです。でも、社内の位置づけとしては「サポート」という大きな役割を担っています。例えば「湧水茶屋一休」のあんこを作ったり、そばを打ったり、「Espresso D Works」(詳細は他の記事をご覧ください)のパスタソースを仕込んだり、ドリンクカップに貼るシール貼りの内職をしたり...他店のサポートを縁側でいろいろやっているんです。
鈴木:他店の大変な「裏方作業」をすべて引き受けているんですね。
久保:これ、組織をつくっていく上で凄く大事だと思っていて、飲食業界ってどうしても「売上が高い店舗が偉い」という空気になりがちですが、売上の低い「縁側」が他店を笑顔で助けている姿を見せることで、社内に「感謝のループ」や「助け合う文化」が生まれるんです。
鈴木:組織全体の文化をこのお店が支えているんですね。
久保:そうですね。自分の利益より先に、相手を助けるという「見えない部分」を大事にしたい。働いている人たちが一番気にしているのは、社風や人間関係といった「見えない部分」ですから。その発信源として、縁側は大きな役割を担っているんです。
「人」の尊さを守りながら、仕組みへとつないでいく
鈴木:今、縁側を担当されているスタッフの方も、非常に前向きに仕事に取り組まれているようですね。
久保:彼女は本当にスペシャルですね。仕事へのエネルギーは人一倍あり、他人や他店のサポートを楽しんでできるような人です。他店の仕込みも「大変そうだから私にちょうだい」と自らもらってきたり、僕がまだ許可していないのに自分でそば打ちを練習してしまったり(笑)。そんな彼女のキャラクターがあるからこそ、今の「サポートの文化」ができています。
鈴木:今後の課題としては、どのようなことをお考えですか。
久保:今は彼女という特定の個人に頼っている部分が大きいですが、今後はチームや「仕組み」で同じことができるように変えていかなければならないと思っています。属人性から脱却して仕組み化することは、いい文化を長く続けるためのうちの課題ですね。これからも鹿島の玄関口で、この「間」と「想い」を大切に守り続けていきたいです。
インタビューを終えて
株式会社Plus Onの中で、「縁側」というお店がどれほど大きな存在であるかを認識するインタビューになりました。組織には様々な役割があり、様々な価値の出し方があります。そのときに重要なのが、数字などの目に見えている価値だけでなく、まだ目に見えていないような無形の価値にも目を向けることだと思います。
とある有名な評価ツールでは、評価の視点として「財務の視点」「顧客の視点」「社内業務プロセスの視点」「学習と成長(組織)の視点」の4つの視点があると言われています。詳細は長くなるため、ここでは書きませんが、このように評価や価値の出し方を様々な視点で多角的に見ていくことで、今回のようなお店の価値だけでなく、組織を構成している人それぞれの価値や重要性を見出すことができるのではないでしょうか。