海老根建設株式会社

【社長インタビュー】
アパレル出身の女性社長が築いた「誰一人見捨てない」組織。座右の銘「すぐやる」に込められた、次世代へ繋ぐ覚悟

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投稿日: 2026.01.20

男社会の象徴とも言える建設業界で、長年にわたり社長として舵を取り続けてきた海老根建設株式会社社長の柳瀬香織氏。アパレル業界からスタートしたキャリアを持つ柳瀬氏は、なぜ未知の領域で圧倒的なリーダーシップを発揮できたのか。そこには、過去の失敗から学んだ「即断即決」の哲学と、業界の未来を見据えた独自の視点がありました。自身も「後継ぎ」という立場に立つ学生ライターの鈴木が、インタビューをさせていただきました。


「いずれ継ぐしかない」――半ば“諦め”から始まった、異業種への転身


鈴木:今回のインタビューでは、柳瀬社長ご自身の歩みに焦点を当てたいと思います。社長は最初から家業を継ぐつもりでいらしたのでしょうか。


柳瀬氏:いえ、全然(笑)。最初は全く関係のないアパレルの会社に勤めていたんです 。でも、あるとき親から「戻ってきてほしい」と言われて戻ってきました。私は三人姉妹の長女で、下に男兄弟はいませんでした。だから、いずれ私が継ぐしかないんだろうなという、当時は半ば「諦め」に近い気持ちでしたね。


鈴木:当時の建設業界といえば、今以上に「男社会」のイメージが強かったと思うのですが、苦労されたご経験はありますか?


柳瀬氏: はい。当時は女性が現場にいること自体が本当に珍しい時代でした。言うことを聞いてもらえなかったり、理不尽な思いをしたりすることもありました。でも、私は現場のことも何も分からず、ただ机に座って書類を作っているだけの人間が社長になるのは、どうしても納得がいかなかったです。


鈴木:それで、あえて現場に飛び込まれたのですね。そのご経験を今はどのようにとらえていらっしゃいますか?


柳瀬氏:そこで働いている人たちが「何に悩み、何に嫌な思いをしているのか」を肌で知ることができたのは、大きな財産です。あのときの経験があるからこそ、現場で働く皆さんの気持ちが分かり、今の「人を大切にする制度」につながっているのだと確信しています。


建設業界の女性を「特別な存在」から、「当たり前のパートナー」へ


鈴木:柳瀬社長は建設業界の女性活躍に対して積極的であるそうですが、建設業界の女性活躍についてどのような想いを持たれているのですか?


柳瀬氏:今の建設業界における女性は、まだ「動物園のパンダ」のように珍しく、どこか遠い特別な存在として扱われがちです。ですが私は、建設現場で働く女性が、まるで家で家族と共に過ごす犬や猫のように、誰もが「当たり前のパートナー」として受け入れられるように変えていきたいと考えています。


鈴木:「当たり前」にするために、まずはその第一歩を支える環境作りをされているそうですね。


柳瀬氏:はい。一人ひとりが孤独に頑張るのではなく、手を取り合える場所が必要だと思い、茨城県建設業協会の女性部会「建女ひばり会」を立ち上げ、代表に就任しました。この会では、県内の女性技術者や事務方が集まり、現場見学会や勉強会、意見交換を行っています。まずは「自分だけじゃないんだ」という安心感や横の繋がりを作る。そうして女性が活躍するロールモデルを一つずつ増やしていくことで、いつの日か女性が建設業を「特別な決意」が必要な仕事ではなく、自分の可能性を当たり前に試せる場所として選べる未来を創りたい。そんな「当たり前」を実現していきたいと考えています。


「ワンチーム」で挑む現場。仲良しな職場の根底にあるもの


鈴木:少し話がそれますが、職場に関して制度が整っているだけでなく、社内の雰囲気も非常に良いと伺いました。


柳瀬氏:そうですね、意外と和やかな感じだと思います。先輩たちが「お兄ちゃん」のように後輩に接していたり、仕事に関係ないプライベートな相談に乗っていたりすることもありますね。もちろん、今の若い方は適度な距離感を望む人もいるので、そこは人それぞれの付き合い方を尊重しています。


鈴木:建設業は危険も伴う仕事ですが、その仲の良さは現場にどう影響していますか?


柳瀬氏:建設現場は「ワンチーム」なんです。不安全な行動は自分の命、仲間の命に関わります。だからこそ、安全を守るためにも仲間を大事にする、コミュニケーションを取るということが何より重要になります。お互いを思いやり、全員で良い方向に進むという意識が、現場の安全と品質を支えているんです 。


わずか数日の遅れが命取りになる。一人の離職から学んだ「すぐやる」哲学


鈴木:柳瀬社長が経営において最も大切にされていることは何でしょうか。


柳瀬氏:「頼まれたら断らない、誘われたら断らない」、そして何より「すぐやる」ことです。実は、この「すぐやる」という姿勢には、私の経営者人生において決して忘れられない苦い経験が背景にあります。


鈴木:ぜひ、その原点となったお話を聞かせてください。


柳瀬氏:昔、ある現場で作業員がトラブルで怪我をしてしまい、お互いの主張が食い違って感情的な対立が生まれたことがありました。私は本人の家に行って直接話を聞くべきだと思っていましたが、当時はあまりに忙しく、訪問を後回しにしてしまいました。


鈴木:そのわずかな遅れが、大きな結果を招いたのですね。


柳瀬氏:はい。訪問した時には既に彼の心は離れてしまっており、結果として彼は会社を辞めてしまいました。一日、二日の遅れが、信頼関係を修復不能にしてしまったんです。人の感情が絡む問題は、時間が経つほど複雑になります。 「あのときすぐに行っていれば」。その時の悔しさが、今の私の鉄則になりました。どんなに忙しくても、問題が起きたらその瞬間に向き合う。絶対に先送りにしない。それが経営者としての私の責任です。


デジタル技術で「かっこいい建設業」へ。ITの力が若者の可能性を広げる


鈴木:これからの海老根建設を担う若手の方々には、どのような期待を寄せていますか?


柳瀬氏:建設業は今、大きな変革期にあります。測量のデジタル化やICT技術をどこよりも早く取り入れ、圧倒的な生産性を実現する「ITに特化した建設業」を目指しています。そのためには、ITの知識や新しいものへの好奇心を持つ若い力が必要不可欠です。


鈴木: 「建設ディレクター」という職種の方も専門的に活躍されているそうですね。


柳瀬氏:はい。データ作成などを通じて現場を強力にバックアップしています。現場の大雑把なところを建設ディレクターが細かくフォローする、その調和が今のうちの強みです。 ITの活用は、単なる効率化ではありません。重労働や危険を減らし、建設業を若者が「面白い」「かっこいい」と思えるクリエイティブな仕事に変えていく力だと信じています。


100年の先へ。次世代へつなぐ「継承」の新しい形


鈴木:会社の「継承」についても、非常に柔軟な考えをお持ちですよね。


柳瀬氏:はい。私には娘がいますが、彼女は全く別の道で頑張っています。私は、無理に親の跡を継がせる必要はないと考えています。それよりも、今会社の中で頑張ってくれている、経営の資質がある人を役員に抜擢し、次の世代へバトンをつないでいくことが重要だと思います。


鈴木:血縁にこだわらず、意志を継ぐ人を育てるのですね。


柳瀬氏:100年以上続いてきたこの会社と、ここで働く社員を守り抜くこと。それが、私の最後の大きな仕事だと思っています。形を変えながらも、海老根建設の精神が次の100年も続いていくよう、全力を尽くす覚悟です。


インタビューを終えて


今回は、海老根建設株式会社の柳瀬社長にお話を聞かせていただきました。経営者として、人として、様々な面から柳瀬社長を知ることができたように感じます。「建設業の女性社長」という昔では珍しい立場でいらっしゃる柳瀬社長の経験や考え方は、自分が逆境に立たされたり、苦労を強いられたりするときの考え方として勉強になったと思います。また、経営者としての、仲間を大切にする気持ちや社会への貢献意識といった部分は、将来の自分にも通ずるところがあると思うので、自分もしっかりと考えて生きていきたいと考えました。

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